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  • Writer's pictureTOYOFUMI KATAGIRI

精神は鍛えるな

以前クリニックに、母親と一緒に高校生の男の子が来院した。その男の子は無理矢理母親に連れてこられたらしく、明らかに不満そうな表情を浮かべている。


母親から話を聞くと、明日からのインターハイ県予選に出場するにあたり、怪我のために2年間大会に出場できなかったことから、非常に緊張しているのでなんとかして欲しいという。


フィジカル的には怪我はすっかり回復されている様子だったため、なぜ緊張するか、そしてその緊張における心と体の相互関係について少しお話をして頭蓋仙骨療法を施した。最後に、ちょっとした瞑想法を伝授して施術を終えた。


この施術において大切なポイントは、2年間大会に出られなかったということ、明日のインターハイで良い結果を出したいという気持ち、さらには、もし怪我をしていなければもっと良い成績を出せるのにという思いなど、「色々な種類の情報」がマインドの中で動き出し、そしてそこから作り出される感情が自律神経系などを通して「緊張」となって体に出現しているということである。


日本の部活動ではいまだに「精神を鍛える」という価値観のもとに、生徒たちは練習に励む傾向にある。この男の子にも聞いたところ部活動で「メンタルトレーニング」は教わったことがないという。


実際、精神を鍛えるとはどういうことなのか?


そもそも、私の捉える「精神=Spirit」とは生まれながらにその人に宿る絶対的な存在であり「鍛えるモノ」ではない。ここで言う「精神=Mind」とは「心」を意味するもので「思考」と同義である。


おそらく「どんな逆境にも堪えられるように自分をとことん追い込み、ひたすら誰よりも多く練習に励む」という考え方が、その原点になっているのではないだろうか。


もちろん「ひたすら誰よりも多く練習に励む」ことは否定はしない。反復練習によって得られるものは確かに多いと思う。


ただ、本番で「私は誰よりも多く練習をしてきたから、絶対に負けるはずがない」という思考は、前述した「色々な種類の情報」と同類で、結局は「緊張」や、逆に「プレッシャー」などを作り出す。


これは単に「マインド」の騒がしさを「マインド」で上書きしているに過ぎず、むしろマインド内の情報量を増やし、交感神経系を余計にブーストさせてしまうだけである。


なので、せっかくの努力を無駄にしないためには、昔ながらの「自分への言い聞かせ」による「マインドをマインドで上書きする」方法ではなく、「マインドの仕組みを理解してマインドを鎮める」ことが必要となる。


そうすると「体」は自律神経系を通してマインドから足を引っ張られることはなく、今まで培ってきた「努力」を100%発揮することができる。よく最高のパフォーマンス状態のことを「ゾーンに入る」と言うが、まさに「無心」の状態で、さらに付け加えるならば「自分自身を客観視している」状態である。


いわゆるこれが「心の仕組み」を理解することの利点であり、アスリートにおける「メンタルマネージメント」と同義であると考える。そしてこの「メンタルマネージメント」の考え方を、反復練習していくことを「メンタルトレーニング」と言う。


結論を言うと、アスリートが「心」を鍛えようとすればするほど、その「心」は騒がしくなり、結果として本番では「体」に多くのプレッシャーを与えてパフォーマンスを低下させてしまう。


日本の指導者は、昔ながらの「心を鍛える」と言う考え方を捨て、「心を理論的に理解する」ことを学び、子供たちに伝えていくべきである。


余談だが、後日お母様からお礼のメッセージをいただき、その男の子は水泳の2種目に出場し、2種目とも自己ベストを記録したそうだ。一時は辞めようか迷っていた時期もあったとのことで、高校生活最後の大会でお役に立てて本当に良かった。


今回の施術を通して、日本でも本物の「メンタルマネージメント」を教育の場に入れて欲しいと強く感じた。



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